マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

『ジョン・コルトレーン「アセンション」に思う』


 前々回のブログでジョン・コルトレーンの最高傑作「至上の愛」について記しました。コルトレーンには、ある人が宗教3部作と命名した晩年のアルバム3枚があります。そのうちの1枚が今回取り上げる「アセンション」です。ほかの2枚は「至上の愛」と「メディテーション」です。

 「アセンション」はコルトレーンがフリージャズを演奏した最初のアルバムとされ、1965年6月28日に一発録音されました。私はEditions II & I が収められたこのCDで聞いています。LPでは最初にEdition I が収録され、のちにEdition II に変更されたそうです。

 John Coltrane - Ascension (1965)は以下のURLで Edition IIをすべて聞くことができます。 
https://www.youtube.com/watch?v=-81AEUqHPzU

「Ascension(邦題:神の園)」の参加メンバーは以下の通りです。
Freddie Hubbard (tp) Dewey Johnson (tp) Marion Brown (as) John Tchicai (as)
John Coltrane (ts) Pharoah Sanders (ts) Archie Shepp (ts)
McCoy Tyner (p) Art Davis (b) Jimmy Garrison (b) Elvin Jones (ds)
「黄金のカルテット」に、トランペット奏者を2人、サックス奏者を4人、ベーシストを1人を加えた11人の編成です。

 冒頭から白熱したバトルのような演奏が続きます。「至上の愛 A Love Supreme 」の録音から6ヶ月後にこのようなフリージャズの演奏を行ったのです。今聞くと、思ったより聞きやすい印象がありました。
 構成は、まずは全員が集団即興を行うパートに続き、約2分ずつ「ドラム」対「ソロ奏者」で延々演奏し、合計約40分です。
 熱狂的なホーン奏者7人のソロが順次始まり、それが終わると、ピアノ、ベースのソロが続きます。私には、マッコイ・タイナーのピアノだけがいつもの通りの演奏に思いました。

「Ascension」は訳すと「上昇、キリストの昇天」です。「Ascension Day」といえば昇天日で、今年は5月18日でした。イエス様の復活の40日後です。
 イエス様の昇天については、使徒言行録1章9-11節にこうあります。
『こう話し終わると、イエスは彼らが見ている前で天に上げられ、雲に覆われて見えなくなった。イエスが昇って行かれるとき、彼らは天を見つめていた。すると、白い衣を着た二人の人がそばに立って、言った。「ガリラヤの人たち、なぜ天を見上げて立っているのか。あなたがたを離れて天に上げられたイエスは、天に昇って行くのをあなたがたが見たのと同じ有様で、またお出でになる。」』
 ここでは、弟子たちはイエス様が天に昇られて、雲の中に入っていくのを眺めていたという、ぼんやりした感じになっていますが、イエス様の本当の故郷は天であり神様と共にあるということですから、イエス様はあるべき所に戻られたのです。また、再びこの世に戻ってこられるという約束をされています。
 信仰深いコルトレーンは、イエス様の昇天及び再臨をイメージしてこの曲を作曲したのではないかと想像します。
 イエス様の昇天の意味は何でしょうか? 昇天日の聖別祷の特別叙唱(祈祷書の194ページ)にこうあります。
「み子は尊いよみがえりの後、明らかに使徒たちに現れ、わたしたちのために住まいを備えるため、その目の前で天に昇られました。これは、わたしたちを主のおられる所に昇らせ、ともに天の栄光の座に着かせてくださるためです」
 イエス様の昇天は私たちを天の国(神の国)に迎えるための準備のためであり、イエス様は私たちを天に昇らせ、共に天の栄光の座に着かせてくださるのです。これがイエス様の昇天の意味と言えます。

 肝臓がんによる死を2年後に控えたコルトレーンは、この世の人生の終わりまで急いで走り抜けました。自身の病気について薄々気づいていたのかもしれません。
 このアルバム「Ascension」の別名は「神の園」です。コルトレーンはこの曲を通じて「神の園」、つまり「神の国」を表現しようとしたのではないでしょうか? そして、そこは誰もが大切にされ自己表現をしている所であり、各演奏者は、そこにおいてこのようにインプロビゼーションを延々と行っているのではないでしょうか?
 イエス様が「昇天」(Ascension)によって私たちを天の国(神の国)に迎えるように、コルトレーンはこの「Ascension」の演奏によって自身を、そして私たちを天の国(神の国)に迎え入れたいと考えたのではないでしょうか?
  ジョン・コルトレーンのアルバム「アセンション」からこのようなことを思い巡らしました。