マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

「津田梅子とキリスト教信仰②」

 去る11月20日に「津田梅子とキリスト教信仰」について記しました。その時は、女子英学塾(現・津田塾大学)を創設し日本の女子高等教育に生涯を捧げた梅子の働きの基にあったキリスト教信仰の概略等について述べました。
 今回は、津田梅子の信仰の礎を築いた留学先のホストファミリーだったランマン夫妻、特に生涯を通じて交流のあったアデライン(ランマン夫人)への手紙や彼女の思いのこもった女子英学塾での卒業式スピーチ等について記したいと思います。
 
 津田塾大学のホームページによれば、1984年に津田塾大学内ハーツホン・ホールの屋根裏部屋で、複数の古いトランクに入った大量の文書が見つかったそうです。大部分は津田梅子直筆、アデライン・ランマン宛の私信であり、当時の日本とアメリカを知る資料としても貴重なものとのことでした。その時その時の思いをまるで日記に記すように書かれた手紙の数は450 通近くにも及んでいて、梅子とランマン夫妻の強い絆が窺えます。
 その手紙の三分の一程は津田塾大学の教職員の手でまとめられて、アメリカで出版されました(「The Attic Letters:Ume Tsuda's Correspondence to Her American Mother」未邦訳)。この手紙のいくつかが翻訳され、「百万人の福音2024年7月号」に掲載されました。

 

 今回は、その手紙の中から2通を紹介します。

 1902年1月22日(37歳)の手紙<抜粋>
 ほんの数日前のこと、幼い頃にランマン家の書庫で様々な本に触れたことがどれほど大きな助けとなってきたかを思い、感慨に浸っていました。あの頃寸暇を惜しんで読書にいそしんだことが、学校で受けた教育や厳しい訓練よりも、英語教師としての今の役に立っているのです。あの頃の私はあふれるばかりの恵みに浴していました。私はそのことにいくら感謝してもしきれません。(中略)私の務めは、自分が受けたものを後代に引き継いでいくことですから、日本の女性の益となることを精一杯行っていきたいと思います。(中略)学校の働きが成功することを信じ、感謝しています。ええ、今も成功しているのです。私はそのことに、今与えられているすべてのことに、心から感謝しています。この仕事を通し、多くの幸せと友人が与えられました。これこそ私の生涯の働き、ライフワークであると信じます。
*子供のいなかったランマン夫妻は実の子供のように梅子を愛し、豊かな教育環境を与えた。読書や芸術、スポーツ、音楽、旅行などを通して、梅子の感性は育まれた。後に梅子が目指した全人教育、「オールラウンド・ウーマン」の教育観の素地はここで培われたと思われる。

 1907年12月18日(42歳)の手紙<抜粋>
 ランマンさん(Mrs.Lanman)にとってこのクリスマスが、陽気(Merry)ではなくて平安な日々でありますように。私とランマンさんが望むのは、子どもたちが過ごすような陽気なクリスマスなどではありませんものね。どうか神様がご自身の平安と祝福をランマンさんに注いでくださいますように。お互い離れた場所にいますが、心は常にそばにいます。過去を振り返るのではなく、やがて必ず相まみえる望みがあることに目を注ぎましょう。私たちは皆、たとえ今若かったとしても必ず将来この世を去り、この地上におけるよりもはるかに多くの幸福を約束された国が待っているのですから。(中略)過去の日々をくよくよと思い巡らすのではなく、天の父が約束してくださっているのですから、勇気をもって未来に広がる幸福を望んで参りましょう!
*この手紙は、梅子が病気療養と視察をかねて1年の休暇を取り外遊した先で書かれたもの。年老いたアデライン(81歳)を励ます気持ちがにじむ。

 津田梅子のアメリカでのホストファミリー(ランマン夫妻)が熱心な聖公会の信徒だったこと、これは神の導きだったと考えます。また、ランマン夫人との交流が生涯続き、いや死後も続いたであろうことは神の恵みだったと思います。そして、梅子が日本の女性の教育の推進をライフワークとしたこと、これも神の導きだったと考えます。

 今回、津田梅子の女子英学塾卒業式におけるスピーチがCDとなっていることを知り、津田塾大学に電話しましたら、660円(税込)+送料で送ってくださいました。

 このCDは2021年3月にリニューアルされたもので、創立100周年の2000年に制作された津田梅子スピーチCDからCDジャケットのデザインを変更し、ブックレットには梅子の卒業式スピーチの新しい日本語訳と解説が収録されていました。
 音源はSPレコードから起こされたもので、音質は良好とは言えませんが、針音の奥から、しっかりしたきれいな発音の梅子の英語のスピーチが聞き取れます。以下、英文と日本語訳を掲載します。

 女子英学塾卒業式スピーチ(抜粋) 1913.3.29  48歳

  The Principal's Address to the Graduates

Learn to love broadly, deeply and devotedly, and your lives can not fall. With nobler desires, greater earnestness and wider sympathy not limeted to just a few, but taking in the many even beyond the home, the weakest of us may attain success. 

Truth and devotion demand that we shall not waste our lives, but that we shall be of some real service in the world. You are responsible to your school and to your teachers that what has been gained by you shall not be lost. You have had wider opportunities that many Japanese women. May this mean much to you, and to those around you. The life guide of good books, and the great men who speak in them, may be yours for the seeking.

May each one of you have 
"Eyes to behold the light,
 A seeking sense that knows the eternal truth, 
 A heart with pity filled, and gentlest ruth,
 Faith that makes darkness bright."  
 
 広く、深く、献身的に愛することを学べば、人生を失敗することはありません。気高い志、ひたむきな熱心さ、広く共感できる力を、少数の人々に限るのではなくて、家庭という領域すらこえて多くの人々に捧げることができるならば、どんなに弱い我々でも人生を実りあるものにできるでしょう。
 真実と献身という指針は、人生を無為にせず、広く社会に働きかけることのできる、有為な人になれと我々に求めているのです。皆さんは学校や教員に対して責任があります。つまり、ここで学んだことを無駄にしてはいけないのです。皆さんは多くの日本の女性より豊かな学びの機会に恵まれました。このことが皆さんにとって、そして皆さんの周りの方々に有意義なものとなりますように、と願っていおります。人生の指針となる古典とそこに記された賢人の言葉は、求めれば、皆さんのものとなるのです。
 皆さんお一人お一人が、「光を見抜く洞察力 永遠の真実を理解する見識 他者を深く思いやれる共感力 暗闇を照らす信仰」を持つことができますように。
  (訳:現・津田塾大学学長 高橋裕子
  
 100年以上前の卒業生へのスピーチですが、現代にも通用する、というか、今こそ必要なnoble(気高さ)やsympathy(共感)を訴えています。「devoted love(献身的な愛)こそが人生を実りあるものにできる」秘訣だとも。そして、「Faith that makes darkness bright(暗闇を照らす信仰)」を持つことを祈って、このスピーチは終わっています。

 戦争や災害、貧困や人権侵害のある、混迷する現代にあって、津田梅子の生き方や考えは一筋の光明であると言えます。その根底には彼女のキリスト教信仰があり、それを育んだランマン夫妻、そしてそれらすべてを包み導いた神の大きな愛があったことを思います。私たちもその神の愛に感謝し、神の導きに従いたいと願うものであります。