マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

「ウクライナのための祈り」に思う

 連日のウクライナでの戦争報道に心が痛みます。
 今回は、大斎始日の礼拝や先主日聖餐式の捧げたカンタベリー大主教とヨーク大主教の連名で作成された「ウクライナのための祈り」や平和への願い等に思い巡らしたいと思います。

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 この「ウクライナのための祈り」の日本語訳は以下のものです。

 ウクライナのための祈り
正義と平和の神よ、 
わたしたちは今日、ウクライナの人々のために祈ります。 
またわたしたちは平和のために、そして武器が置かれますよう祈ります。 
明日を恐れるすべての人々に、
あなたの慰めの霊が寄り添ってくださいますように。 
平和や戦争を支配する力を持つ人々が、知恵と見識と思いやりによって、
み旨に適う決断へと導かれますように。
そして何よりも、危険にさらされ、恐怖の中にいるあなたの大切な子どもたちを、あなたが抱き守ってくださいますように。 
平和の君、主イエス・キリストによってお願いいたします。
アーメン。

ジャスティン・ウェルビー大主教 
ティーブン・コットレル大主教

 英語の原文はこうです。
 A Prayer for Ukraine
God of peace and justice,
we pray for the people of Ukraine today.
We pray for peace and the laying down of weapons.
We pray for all those who fear for tomorrow,
that your Spirit of comfort would draw near to them.
We pray for those with power over war or peace,
for wisdom, discernment and compassion to guide their decisions.
Above all, we pray for all your precious children, at risk and in fear, that you would hold and protect them.
We pray in the name of Jesus, the Prince of Peace.
Amen.

Archbishop Justin Welby
Archbishop Stephen Cottrell


 緊急の祈りとして、ウクライナに於いて武器が置かれることを、ウクライナの人々を父なる神が抱き守ってくださるよう祈っています。また、指導者に対して神の御旨に適う決断の導きを祈っています。そして、主語は「わたしたちはWe」となっていて、私を含む一人称複数が「平和の君」であるイエス様のとりなしによって「正義と平和の神」に祈っています。
 本当に私たちはこの祈りを、心込めて「ウクライナの平和」のため祈りたいと思います。

 「侵略」及び「平和Peace」ということで私が思い浮かベるのは、チェリストパブロ・カザルス「鳥の歌」です。1971年10月24日国連本部でのスピーチの入った演奏を以下のアドレスで聞く(見る)ことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=_T8DjwLt_c4

 カザルスは演奏前のスピーチでこう言っています。
『I have not played the cello in public for many years, but I feel that the time has come to play again. I am going to play a melody from Catalan folklore: El cant dels ocells – The Song of the Birds. Birds sing when they are in the sky, they sing: “Peace, Peace, Peace”, and it is a melody that Bach, Beethoven and all the greats would have admired and loved. What is more, it is born in the soul of my people, Catalonia.』
『私は公共の場で長年に亘ってチェロを演奏していません、しかし私はまた演奏する時が来ていることを感じています。El cant dels ocells-『鳥の歌』と言います:私は、カタロニアの民謡のから一つのメロディを演奏しようと思います。鳥たちは空にいるときに歌います、彼らが歌うのは:“Peace, Peace, Peace”(平和、平和、平和)、そして、それはバッハ、ベートーベンそして全ての偉人たちが賞賛し、愛したメロディーになります。 そのうえ、カタルーニャ、わたしの民族の魂の中に生まれるのです。』

 これは彼の祖国であるカタルーニャ(=カタロニア:Catalunya)について語った後での言葉です。カタルーニャは現在はスペインの自治州として属していますが、カタルーニャ君主国であったところです。スペイン内乱後はフランコ政権によるカタルーニャ言語の公での使用禁止などの抑圧がありました。パブロ・カザルスの「鳥の歌」のスピーチは、単純に鳥の歌声の擬音を「Peace」と表現したものではなく、故郷カタルーニャへの抑圧を表現したものです。地では歌えぬ言葉も空の上では自由に声にすることができる、その言葉が「Peace」であるというものです。そして「バッハ、ベートーベンそして全ての偉人たちが賞賛し、愛したメロディー」は民族を超えた音楽の自由であり、それはまたカタルーニャや抑圧されている多くの民族に共通する魂の言葉だというのです。カザルスはチェロ演奏でこの理想を語ったのでした。

 聖書のいう「平和」はシャロームという言葉です。この言葉は「こんにちは」から「さようなら」まで、実に豊かな広がりのある平安を祈る言葉です。日常の挨拶から始まって家族・共同体・国家まで、地上の動植物から神様まで、幅広い意味を持っています。平和は、相手を信じ、相手との関わりを築く呼びかけから始まります。相手への信頼を込めた呼びかけから始まります。
 今、ウクライナで行われている戦闘を一刻も早く止めるためにも「シャローム」と呼びかけることが重要であるように思います。そして、イエス様が示されている「平和」を実現できるよう「ウクライナのための祈り」を心を込めて祈りたいと思います。
 
『平和の神があなたがた一同と共にいてくださいますように、アーメン。』(ローマの信徒への手紙15章 33節)