マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

『赤毛のアンとブラウニングの詩』

 1月13日(土)から「キリスト教文化入門」が開始されました。初日はL.M.モンゴメリ作「赤毛のアン」の題名や題辞等について思い巡らしました。題辞には本のテーマやモットー等が示されています。

 アンの名前はアンナから来ていること、アンナはルカ2:36-38の女預言者アンナであり、イエス様のことを話すという使命が与えられているように、アンも言動を通してイエス様のことを伝える使命があるのではないかとお話ししました。
 アンは赤毛にコンプレックスがあり、イスカリオテのユダ赤毛だったという伝説があるように、悪いイメージがあるということも話しました。そして、原題の「Anne of Green Gables」が最初の翻訳者の村岡花子が「赤毛のアン」と邦訳された由来についても言及しました。それは、村岡花子は題名を「窓辺に寄る少女」としようとしたが、若い女性編集者が「赤毛のアン」を提唱し、20歳の村岡の娘が「赤毛のアン」に賛同したということでした。

 「赤毛のアンを英語で読む」第1回はプロローグとして、特に題辞エピグラフ)を集中して取り上げました。モンゴメリは「赤毛のアン」の題辞としてブラウニングの詩「イーブリン・ホープ」から取り上げています。 
 ロバート・ブラウニングRobert Browning(1812年-1889年)は、イギリスのビクトリア朝時代の代表的詩人で、「劇的独白」とよばれる手法で心理描写に新生面を開きました。

赤毛のアン」の題辞は以下の通りです。
“The good stars met in your horoscope, 
 Made you of spirit and fire and dew.”
これを、今回の集いで主に使用している松本侑子訳ではこうです。
「あなたは良き星のもとに生まれ 精と火と露より創られた」
 また、村岡花子訳は以下の通りです。文語で格調高い訳となっています。
「天空の導きの星が汝の運命を定め、活気と火と露もて汝の魂を創り給いし」

 私は岩波文庫の「対訳 ブラウニング詩集」を読んでいます。

 

 この詩集の編者である富士川義之の訳はこうです。
「この世に生まれたときに出遇った運命(さだめ)の星は、霊と火と露からきみを造った-」
 ここではspiritを「霊」と訳しています。spiritには「精神」や「魂」等、多くの訳がありますが、神が介入していることを思えば「霊」とするのがふさわしいように思います。
 神が霊と火と露から創造された存在が、この本の主人公、アン・シャーリーであると考えます。

 ブラウニングの詩は「赤毛のアン」の最後でまた登場します。それは劇詩『ピッパが通る』の「朝の詩」より、最後の二行が引用されています。原文は以下の通りです。
“‘God’s in his heaven, all’s right with the world,” whispered Anne softly.

松本侑子訳はこうです。
『「神は天にあり、この世はすべてよし」とアンはそっとつぶやいた。』
従来からの村岡花子訳ではこうです。
『「神は天にあり、世はすべてよし」とアンはそっとささやいた。』
これはブラウニングの「ピッパの歌」からの引用です。
 日本で「ピッパの歌」は、上田敏の翻訳詩集『海潮音』の中の「春の朝(はるのあした)」で知られています。こうあります。
「時は春 日は朝(あした) 朝は七時(ななとき)
 片岡に露満ちて 揚雲雀(あげひばり)なのりいで 
 蝸牛枝(かたつむり)に這ひ 神 空に知ろしめす 
 すべて世は事も無し」
 この最後の二行からの引用が、「赤毛のアン」の最後の言葉です。

 マシューの死や大学進学を断念するなど、思い描いていた未来とは違いますが、「世はすべてよし」としてすべてを受け入れ、未来に希望を見出すアンの姿は、朝の光のように輝いています。すべてを神に任せ未来に希望を託すアンは、「希望は必ず見つけ出せる」と私たちに教えているようです。
 神が天におられるゆえに、最終的にはすべてをよしとされる。それはパウロも強調している真理です。ローマの信徒への手紙8章28節にこうあります。
「神を愛する者たち、つまり、ご計画に従って召された者のためには、万事が共に働いて益となるということを、私たちは知っています。」

 「赤毛のアン」は神への信仰、隣人への愛のあふれた作品です。神は存在し、私たちをいつもみ守り、愛情を注いでくださるのです。人は無意識かもしれませんがそのことを求めているように思います。これからも「赤毛のアン」を通して、その背景にあるキリスト精神やキリスト教文化等について思い巡らしていこうと思います。次回からはALT(外国語指導助手)も参加する予定です。