『ピアニスト、クララ・ハスキルに思う』
私は毎月第2日曜は朝10時半から新町聖マルコ教会で聖餐式を捧げています。先日、7月14日(日)に新町に向かう車の中でFMを聞いていたら心惹かれる演奏に出会いました。それがNHK-FM「名演奏家ライブラリー」のクララ・ハスキル特集でした。番組のタイトルは「研ぎ澄まされたピアニズム クララ・ハスキル」。ちょうど私が聞いていたのが『モーツァルト作曲: ピアノ協奏曲第20番 ニ短調K.466』でモーツァルト生誕200年のLive録音、指揮はカラヤンで演奏はフィルハーモニア管弦楽団でした。粒立ちのいい美しいピアノの音色と若き巨匠カラヤンの力のこもった演奏に聴き入ってしまいました。次の『モーツァルト作曲:「ママ,聞いてちょうだい」による変奏曲 ハ長調 K.265』のハスキルの可憐な演奏を聴いているうちに新町の教会に着いてしまいました。
二日後の16日(火)午後4時からこの番組の再放送があり、最後まで聞くことができ、クララ・ハスキルの美しいピアノの音色に魅了されてしまいました。案内役の音楽評論家・満津岡信育は「研ぎ澄まされた端正な演奏」と評していました。まさにその通りと思いました。そして、クララ・ハスキルの演奏をもっと聴きたいと思い、10枚組のこのCDを購入しました。

このCDには、番組の最後に放送された『モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番K.491 イーゴリ・マルケヴィチ指揮、コンセール・ラムルー管弦楽団(1960年録音)』が1枚目に収録されていました。この演奏はこの曲の定番とされています。以下のURLで聞くことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=jveN2zX6b6U
これがクララ・ハスキルの最後の録音で、この3週間後に彼女は逝去しています。まさに「白鳥の歌」で、クララのすべての魅力を凝縮したような演奏です。
クララ・ハスキルはルーマニア出身のピアニストで、モーツァルト弾きとして定評がありました。幼少期から才能を発揮していましたが、病気等に悩まされて思うようにキャリアを積めず、実際に大きな注目を浴びたのは戦後、50歳を過ぎてからのことでした。ヴァイオリニスト、グリュミオーとの共演も素晴らしく、この10枚組にもモーツァルトやベートーヴェンのヴァイオリンソナタが収められています。
クララ・ハスキルは1895年生まれ。15歳のときに、パリ音楽院を首席で卒業するほどピアノの才能に恵まれていましたが、病気にもずっと悩まされ続けました。若い時から膠原病や脊柱側弯症を患い、脳腫瘍にも見舞われました。ユダヤ人だったクララは第二次世界大戦中にナチス・ドイツから迫害を受け、スイスに逃亡します。過酷な運命と闘い続けたクララ。伴侶もなく、寂しい人生だったかもしれません。ブリュッセルでのグリュミオーとのコンサートの前日、駅の階段で足を踏み外して転落し、翌日に亡くなります。65歳でした。クララ・ハスキルのピアノの端正さと共に垣間見せるメランコリックな響きは、彼女の人生が反映しているのかもしれません。
なお、チャールズ・チャップリンとはスイスで隣に住んでいた縁で交流するようになり、チャップリン家でピアノを弾くこともあったようです。チャップリンはハスキルの才能に感嘆し、次のような賛辞を贈っていました。「私の生涯に出会った天才は3人だけだ。 ウィンストン・チャーチル、アルバート・アインシュタイン、 そしてクララ・ハスキルである」と。
クララ・ハスキルが亡くなって60年以上が経過しますが、今も私を含めて多くの人を魅了する原動力は何でしょうか?
「クララ・ハスキル 神が地上に遣わしたピアノの使徒」という畠山陸雄が記した単行本がありますが、まさに神様がこの地上に派遣したピアノの使徒、それがクララ・ハスキルだったと思います。クララは演奏のための移動中も体を最大限に労っていたそうです。膠原病や脊柱側弯症、そして脳腫瘍という難病を抱えながら神様から与えられた才能(賜物)を最大限に生かした人生だったと思います。さらに言えば、病気さえも賜物として受け入れていたように思います。三浦綾子の日記エッセイで「この病をも賜(たまもの)として」という作品がありますが、そのような思いだったのではないでしょうか? 三浦綾子も星野富弘さんも自身の病や障害を神から与えられたものとらえ、そこに意味があるとして作品を発表し、多くの人に感銘を与えました。それと同様なことがクララ・ハスキルにも言えると私は思います。クララの「研ぎ澄まされた端正な演奏」の背景には、神から与えられた才能を最大限に生かし、この病をも賜物として受け入れる神への全幅の信頼・信仰があったがゆえと思うのです。
ペトロの手紙一 4章10節にこうあります。
「あなたがたは、それぞれ賜物を授かっているのですから、神のさまざまな恵みの善い管理者として、その賜物を用いて互いに仕えなさい。」
クララ・ハスキルは神から与えられた賜物(才能や病)を用いて神に仕える思いで演奏しました。それが今も多くの人に感動を、そして苦難を抱えながらも生きていこうという希望を与え続けていると思うのであります。