マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

『エリック・クラプトンとキリスト教信仰②』

 4月24日(月)、武道館のエリック・クラプトンのコンサートに行ってきました。席は北西スタンドのサイドステージでしたが、かえって演奏者に近く、クラプトンも時々顔を向けてくれて、そんなに悪い席ではありませんでした。休憩なしで1時間45分連続の演奏でした。当日購入したパンフレットです。

この日のセットリストは以下の通りでした。
【Electric set】
01. Blue Rainbow
02. Pretending
03. Key to the Highway
04. I'm Your Hoochie Coochie Man
05. I Shot the Sheriff
【Acoustic set】
06. Kindhearted Woman Blues
07. Nobody Knows You When You're Down and Out
08. Call Me the Breeze
09. Sam Hall
10. Tears in Heaven
11. Kerry
【Electric set】
12. Badge
13. Wonderful Tonight
14. Cross Road Blues
15. Little Queen of Spades
16. Cocaine
【アンコール】
17. High Time We Went

 クラプトン自身の好きな曲だけを演奏している感じで、ブルースが多く、ヒット曲の「いとしのレイラ」をアンコールでしてくれるかと思いましたが、なされませんでした。「レイラ」は彼にとっては過去の曲なのかもしれません。 このコンサートで私が最も心惹かれた曲は「Tears in Heaven」でした。事故(住んでいたマンションからの落下)で亡くした4歳の息子コナーを悼んで作詞・作曲した曲です。
 この演奏をどなたかがYotTubeにアップしてくれました。以下のURLです。途中でプロコル・ハルムの「青い影」のメロディーがオルガンで演奏され、「おっ」となりました。長くクラプトンのツアーメンバーだったゲイリー・ブレッカー(プロコル・ハルムのヴォーカル)が昨年亡くなったことを悼んでのことと思いました。
https://www.youtube.com/watch?v=9yvdlct8eRk

「Tears in Heaven」を私はこのCDで聞いてきました。

  1999年にリリースされたベスト盤「Chronicles」です。このCDの4曲目に「Tears in Heaven」が収録されています。歌詞と和訳を示します。
  
Would you know my name If I saw you in heaven
Would it be the same If I saw you in heaven
君は僕の名前を覚えているかな 君に天国で会ったら
前と同じままかな 君に天国で会ったら

I must be strong, and carry on
'Cause I know I don't belong Here in heaven
強く生き続けなければならない
僕は天国にはふさわしくない人間だから

Would you hold my hand
If I saw you in heaven
Would you help me stand
If I saw you in heaven
君は僕の手を握ってくれるかな 君に天国で会ったら
君は僕を支えてくれるかな 君に天国で会ったら

I'll find my way, through night and day
'Cause I know I just can't stay Here in heaven
歩むべき道を探していくよ 夜も昼もずっと
僕は天国にはふさわしくない人間だから

Time can bring you down Time can bend your knee
Time can break your heart Have you begging please
Begging please
時は君を落ち込ませ 時は君をひざまずかせ
時は君の心を砕き 君を懇願させる
どうかお願いだからと

Beyond the door There's peace I'm sure.
And I know there'll be no more Tears in heaven
扉の向こうに きっと平穏がある
僕には分かる 天国ではもう泣かなくていいんだと

Would you know my name If I saw you in heaven
Would it be the same If I saw you in heaven
君は僕の名前を覚えているかな 君に天国で会ったら
前と同じままかな 君に天国で会ったら

I must be strong, and carry on 
'Cause I know I don't belong Here in heaven
'Cause I know I don't belong Here in heaven
強く生き続けなければならない
僕は天国にはふさわしくない人間だから
僕は天国にはふさわしくない人間だから

 愛する息子を亡くした父親の思いを切々と歌っています。この世では別れましたが、天国での再会を確信し、それを楽しみにしている様子もうかがえます。しかし、クラプトン自身は「まだこの世で生き続けなければならない」と歌っています。「天国にふさわしくないから」と思っています。
 キリスト教では、私たちは天の御国から使命を行うようにこの世に送られ、使命を果たした時にこの世の生を終え、故郷であるその国に帰ると考えています。そこで「帰天」という表現をしています。
 4歳の愛する息子を天国に送ったクラプトンですが、彼には「この世で果たすべき使命がまだあるから、強く生き続けなければならない」と考えているのだと思いました。

 私がこの「Tears in Heaven」から思い浮かべた聖歌があります。それは私たち日本聖公会の聖歌集では第522番「神ともにいまして」です。歌詞はこのようです。

1 神ともにいまして 行(ゆ)く道を守り
  天(あめ)のみ糧(かて)もて 力をあたえませ
 (おりかえし)
  また会(お)う日まで また会(お)う日まで
  神の守り 汝(な)が身(み)を離れざれ

2 荒れ野を行(ゆ)くときも 嵐吹くときも
  みつばさのもとに 守り育(はぐく)みませ
 (おりかえし)

3 いぶせき雲覆い ゆき悩むときも
  愛の光もて 照らしなぐさめませ
(おりかえし)

4 み国に入(い)る日まで み恵み豊かに
  行(ゆ)くてを示して 絶えず導きませ
 (おりかえし)

  聖歌522番「神ともにいまして」の表題の英語原文は「God be with you till we meet again」、直訳では「私たちが再会するまで神があなたと共にいますように」です。    
 聖歌522番はほとんどの葬送式で歌われますが、私にとって印象深かったのは60歳台前半で天国に召された女性、H・Mさんの葬儀でのことです。火葬場で今まさに荼毘に付されんとする時に「Mちゃん、ありがとう」という声がどこからか聞こえ、この聖歌「神ともにいまして」をそこにいた人々が歌い始めたのです。ほとんどの方が信者ではなかったと思いますが、声を合わせ合唱となりました。それは本当に感動的でした。

 聖歌522番は天国での再会まで神のみ守りを祈る歌ですが、「Tears in Heaven」は天国の存在とそこでの再会を確信しています。そして「Tears in Heaven」を作曲し演奏することで、クラプトン自身が救われ、同じ境遇にある人々に希望を与えたのでした。前回紹介したクラプトン自伝の中にこうあります。息子を失って「Tears in Heaven」等を作曲したことについてです。
『私たちは本当に再会するのだろうか? こんな曲の深い部分の話をするのは難しい。だから歌にするのだ。人生の暗い時期に私が生き続けられたのは、こんな曲の誕生と発展があったからだ。そもそも、これらの曲を作ったのは、気が狂うのを防ぐためであり、出版したり公にしたりするつもりはなかった。一人で繰り返し演奏して、私の存在の一部になるまで、常に変えたり直したりしていた。』(P.361)
『素面でいることが人生で最も重要なことだったし、私にはないと思っていた指針を与えてくれた。人生がいかにはかないものであるかに気づかされてもいたが、不思議なことに、それが励みにもなっていた。』(P.366)
『息子に関する新しい曲を演奏する必要性も感じていたし、それが私だけでなく、そんな激しい喪失感に苦しんだ人間や、将来に悩まされることになる人間をみんな救うことになると本気で信じていた。』(P.367)

 「Tears in Heaven」は1993年のグラミー賞の最優秀レコード賞等3部門を受賞し、この模様を収録したライブ・アルバム『アンプラグド〜アコースティック・クラプトン』も3つのグラミー賞を受けました。アコースティック・ギターの演奏がクラプトンの新境地となりました。
 4歳の息子の死は大きな悲しみでしたが、それをそれだけで終わりにせず、その意味を問い、自分の使命を自覚し「Tears in Heaven」が生まれました。この世の名声とは関係なく、クラプトンのキリスト教信仰が「Tears in Heaven」を生み出したと私は考えます。