マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

『ツツ大主教の信仰と働き(2)』

 前々回のブログで、昨年末に帰天された南アフリカの反アパルトヘイトの旗手であったツツ大主教の信仰とその働きについて記しました。今回はその続編です。
 ツツ大主教については、年が明け1月1日にケープタウンの聖ジョージ大聖堂で国葬が執り行われたことが報じられました。以下は3日の新聞記事です。
『<旅立ち「最も安価な」棺で ツツ元大主教、南ア国葬
 南アフリカアパルトヘイト(人種隔離)政策の撤廃運動を率い、先月26日に亡くなったノーベル平和賞受賞者のデズモンド・ツツ大主教国葬が1日、ケープタウンにある聖ジョージ大聖堂で開かれた。参列したラマポーザ大統領は「国の道徳の羅針盤であり、良心だった」とツツ氏の死を悼んだ。
 国葬のため聖堂内に据えられたツツ氏の棺は、「最も安価なものに」という本人の意向に沿い、飾りのない白木の質素な作りで、棺の上には1組の白い花束が手向けられているのみだった。
 ツツ氏は、南アフリカの人種や民族の多様性を示す「虹の国」という言葉を作り出したことでも知られる。ラマポーザ大統領は「虹の国という言葉とともに、彼は希望と許しという最大の贈り物を私たちの国に残してくれた」とツツ氏の功績をたたえた。
 新型コロナウイルスの感染拡大などもあり、この日の国葬に一般の参列者は参加できなかった。ケープタウン市庁舎前の広場に設けられた大型テレビの前には数十人の人々が集まった。
 映像を見ていたアンソニー・マシューズさん(64)は「彼のリーダーシップのもとで、80年代には私も反アパルトヘイトデモに参加した。彼こそ、人々のために立ち上がった人だった」と別れを惜しんだ。』
 「安価な柩に」という意向にツツ大主教の人となりが表れ、「虹の国」という言葉に多様性のシンボルと希望と許しのメッセージが込められています。

 ノーベル平和賞受賞時の演説で、ツツ大主教はこう言っています。
『この賞は、鉄道駅に座ってジャガイモやトウモロコシや農産物を売ってかろうじて生計を立てる母親たちのための賞です。この賞は、単身者用のホステルに座り、1年の内11か月間子供たちから引き離されているあなたたち父親のための賞です...この賞は、KTCの不法居住者キャンプで、毎日無常にも住処を破壊され、冬の雨に浸されるマットレスで、泣いている赤ん坊を抱きしめて座っているあなたたち母親のための賞です...この賞はあなたたち、故郷から追い出され、ごみのように捨てられた350万人の同胞のための賞です。この賞はあなたたちの賞です。』
 ここで言われているのは、ノーベル平和賞受賞はツツ大主教個人が受けたものではなく、苦しめられている南アフリカの同胞に与えられたということです。

 ところで、私は今、ツツ大主教について、この本を読んでいます。デズモンド・ツツ大主教の著書「南アフリカに自由を~荒野に叫ぶ声~」です。

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 この本の中に、1976年に当時の首相に宛て書いた手紙が収録されています。 その中でこの祈りを捧げています。
『アフリカに神のお恵みがありますように
 アフリカの子どもたちをお守りくださいますように
 統治者たちをお導きになり
 アフリカに平和をくださいますように
 イエス・キリストのために。』
 さらに、ツツ大主教はアシジのフランシスコの平和の祈りをこのように引用しました。
『ああ、主よ、私たちあなたの平和の道具にしたまえ。
 すなわち、憎しみのあるところには、愛という種子を私たちに播かせてくだ さい。
 侮辱のあるところには許しを、
 絶望のあるところに希望を、
 暗闇には光を、悲しみのあるところには喜びを私たちに播かせてください。』

 この本はノーベル平和賞を受賞した直後(1985年)に出版されており、受賞記念講演も含まれています。そこで、当時の南アフリカで行われていた理不尽な人種差別の撤廃について世界に発信し、最後にヨハネの黙示録7:9-12を引用し、このように祈りました。
『この後、わたしが見ていると、見よ、あらゆる国民、種族、民族、言葉の違う民の中から集まった、誰にも数えきれないほどの大ぜいの群集が、白い衣を身にまとい、しゅろの枝を手に持って、御座と小羊のとの前に立ち、大声で叫んで言った。
「救いは、御座にいますわれらの神と、小羊からきたる。」
 御使たちは皆、御座と長老たちと四つの生き物との周りに立っていたが、御座の前にひれ伏し、神を拝して言った。
 アーメン。讃美、栄光、知恵、感謝、誉、力、威力が、世々限りなくわれらの神にありますように、アーメン。」

  このようにツツ大主教アパルトヘイト及び人種差別撤廃の運動は信仰に基づくものであり、それは神の御心であるから「必ず達成される」という確信に満ちていました。私たちが社会運動や人権問題に関わる基本的姿勢がここに示されています。

 1月25日付けの「管区事務所だより」にカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー師のコメントが掲載されていました。
「デズモント・ツツ大主教は、預言者であり聖職者であり、言葉と行動の人であり、彼の人生の基盤であった希望と喜びを体現する人でした。深い悲しみの中にあっても、私たちは素晴らしい人生に感謝を献げます。安らかに眠り、栄光のうちによみがえることを祈ります。」

 ツツ大主教は、荒れ野で叫んだ預言者であり、御言葉に基づき行動した聖職者であり、聖公会の良心、信仰者の模範であると言えます。ツツ大主教に倣い、神の言葉や信仰に基づき、社会運動や人権問題に取り組んでいきたいと切に願います。