マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

『ルイ・アームストロングの音楽とキリスト教(3)』

 これまで2回に渡って、サッチモ、ことルイ・アームストロングの音楽とキリスト教について記してきました。曲としては「この素晴らしき世界」(What a Wonderful World)と「聖者の行進(When The Saints Go Marching In)」について思い巡らしました。そこから思い浮かぶ聖書のみ言葉についても言及しました。ルイ・アームストロングには黒人霊歌(ニグロ・スピリチュアル)ばかりのアルバムもあります。それが「ルイと聖書(Louis And The Good Book)」です。
 私はこのCDで聞いています。

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 1958年2月の録音で、全12曲の中には「誰も知らない私の悩み」「ゴー・ダウン・モーゼス」「ダウン・バイ・ザ・リヴァーサイド」「 スイング・ロウ・スイート・チャリオット」「時には母のない子のように」「ジス・トレイン」という黒人霊歌でよく知られているものが並んでいます。
  今回はこのCDの1曲目の「誰も知らない私の悩み Nobody Knows the Trouble I've Seen」にスポットをあてて思い巡らしたいと思います。
 サッチモが歌う「誰も知らない私の悩み Nobody Knows the Trouble I've Seen」は下のアドレスから聞く(見る)ことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=SVKKRzemX_w&t=70s

 歌詞と和訳はこうです。

Nobody knows the trouble I've seen,  Nobody knows but Jesus.
Nobody knows the trouble I've seen,  Glory hallelujah!
誰も知らない私の悩み(苦しみ)  イエス様だけは知っておられる
誰も知らない私の悩み(苦しみ)  主に栄光がありますように!

Sometimes I'm up, sometimes I'm down, Oh, yes, Lord!
Sometimes I'm almost to the ground, Oh, yes, Lord!
時には陽気に 時には落ち込み ああ、そうです、主よ!
時には倒れる寸前まで ああ、そうです、主よ!

I never shall forget that day,  Oh, yes, Lord!
When Jesus washed my sins away  Oh, yes, Lord!
この日を決して忘れません  ああ、そうです、主よ!
あなたは私の罪を洗い流してくれたのです  ああ、そうです、主よ!

 歌詞では、最初「Nobody knows the trouble I've seen」、誰も自分の悩みや苦しみを知らない、といいますが、これは気弱に嘆いているのではなく、次に「Nobody knows but Jesus」、すなわち、主イエス様だけは分かってくださる、だから心を強く持って苦しみや悲しみにも耐えていける、ということが歌われています。
 自分が悩み苦しいのは、つらい現実があるだけでなく、その苦しいことを誰にも分かってもらえないことが一層つらいのだと思います。誰も私の悩みや苦しみを知らないけれど、イエス様だけは分かってくださる、そこに「救い」があると考えます。

 この曲から私が思い浮かべた聖句は、マタイによる福音書11章 28-30節です。
「すべて重荷を負って苦労している者は、私のもとに来なさい。あなたがたを休ませてあげよう。私は柔和で心のへりくだった者だから、私の軛を負い、私に学びなさい。そうすれば、あなたがたの魂に安らぎが得られる。私の軛は負いやすく、私の荷は軽いからである。」
  私たちの苦労を分かってくださるイエス様のもとに行けば休ませていただけるのです。しかし、そこでイエス様のくびきを負うことが求められています。くびきは先主日の説教でも語りましたが、2頭の牛が共同作業をするために共につながれることであり、イエス様と共にくびきを負う、つまりイエス様と結ばれることで魂に安らぎが得られるのです。ここに深い真理があるように思います。
 奴隷として厳しい現実を生きていた当時の黒人にとって、自分の悩みや苦しみを主イエス様だけは分かってくださる、ということは大きな福音だったと考えられます。そして、イエス様のくびきを負うことはイエス様と共にくびきを負うことであり、それはイエス様が自分の重荷も一緒に負ってくださるということで、そこに「救い」を見出していたと思います。ルイ・アームストロングはそのことをよく分かってこの黒人霊歌「Nobody knows the trouble I've seen」を歌っていたと思うのです。さらにそれを聴く私たちにも、イエス様の思いが伝わって来て、胸が熱くなります。