マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

『24年前の「ダイアナ妃葬送式」に思う』

 衝撃だったダイアナ元皇太子妃が亡くなったのが1997年8月31日、そして葬送式が同年9月6日にウエストミンスター寺院で行われました。今回、葬送式から24年目にCDでその模様を聞きました。このCDです。

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 オルガン独奏によるウィリアム・ハリスの前奏曲から始まって、数曲の聖歌、ヴェルディのレクイエム、そしてジョン・タヴナーのハレルヤで終わるまで、まるで式全体がひとつのオラトリオのような音楽的にも充実した内容でした。

 葬儀は、午前9時8分に、ロンドンのケンジントン宮殿から葬列が出発することを告げるウェストミンスター寺院の鐘が鳴り、始まりました。世界中が注目し、全世界のテレビ局がその一部始終を放映しました。当時の日本のテレビ局による、その模様の番組は下のアドレスで見ることができます。
https://youtu.be/tXf-RltDjqo

 葬送式は聖公会の伝統的な礼拝として、ウェストミンスター首席司祭のウェスレイ・カーの司式、カンタベリー大主教のジョージ・ケアリーの祈祷により、午前11時から始まり、1時間10分にわたって行われました。 
 英国国歌『神よ女王を守り給え』の歌唱で幕を開け、クロフト、パーセルホルストヴェルディなどの楽曲が礼拝中に演奏されました。

 式の中程で、当時のトニー・ブレア首相がコリントの信徒への手紙一 第13章の抜粋を朗読しました。ブレア首相はその13節を欽定訳聖書(King James Version)で読み上げました。
『And now abideth faith, hope, charity, these three; but the greatest of these is charity.』(それゆえ、信仰と、希望と、慈愛、この三つは、いつまでも残ります。その中で最も大いなるものは、慈愛です。)
 ブレア首相はLoveでなくCharityのVersionを取りました。Charityは「慈悲」とも「慈善」とも訳せます。
 ダイアナ妃は多くの慈善活動に力を注いでいました。例えば、1996年10月にはロンドンの病院に入院していたエイズ患者と交流しました。翌1997年にはアンゴラを訪問し地雷除去活動にも励みました。危険地帯にも臆せず足を踏み入れ、現地の子どもたちとも交流していました。
 そのようなことから、ブレア首相はCharity(慈善)と表現したと考えられます。
 
 ブレア首相の聖書朗読の後には、エルトン・ジョンが『キャンドル・イン・ザ・ウインド』を歌いました。「イギリスの薔薇よ、さようなら」から始まるこの曲は、チャリティ・ソングとして発売され、シングル曲で世界歴代1位の売り上げを記録しました。

 この後、印象深かったのが「アシジのフランシスコの祈り」に基づく聖歌「Make Me a Channel of Your Peace 」(私をあなたの平和の担い手にしてください)でした。曲はSebastian Temple、歌詞はこうです。

 Make me a channel of your peace. 
  Where there is hatred let me bring your love. 
  Where there is injury, your pardon, Lord 
  And where there's doubt, true faith in you.
 Oh, Master grant that I may never seek
  So much to be consoled as to console 
  To be understood as to understand 
  To be loved as to love with all my soul. 
 Make me a channel of your peace
  Where there's despair in life, let me bring hope 
  Where there is darkness, only light 
  And where there's sadness, ever joy.

        (repeat chorus)
 Make me a channel of your peace
  It is in pardoning that we are pardoned 
  In giving to all men that we receive 
  And in dying that we're born to eternal life.
        (repeat chorus)
 Make me a channel of your peace. 
  Where there is hatred let me bring your love. 
  Where there is injury, your pardon, Lord 
  And where there's doubt, true faith in you.
 
 私はこの曲を「古今聖歌集増補版’95」で初めて知りました。その第1番で紹介され、ダイアナ妃の葬儀で歌われ、思いを新たにしました。
 この聖歌は後に聖歌集の改訂により、歌詞が少し変わりました。最初は「あなたの平和の道具にしてください」でした。
 現行の聖歌417番の歌詞を示します。

 (おりかえし)
 あなたの平和の器にしてください
 主よ わたしをあなたの 平和の器に
1.憎しみあるところに あなたの愛があるように
  悲しみあるところに よろこびが あるように
 (おりかえし)
2.絶望あるところに 希望の道があるように
  暗闇あるところに 光が満ちるように
(おりかえし)
3.慰められるよりも 慰めることをもとめよう
  愛されることよりも  愛すること もとめよう
 赦すことにより わたしたちは赦され
 神の愛を伝える 平和の器に 
 
 世界中の人がこの曲を耳にしただけでも、ダイアナ妃は大きな役割を果たしたと考えます。ダイアナ妃のCharity(慈善)を讃えるだけでなく、「愛されることよりも愛することを求めよう」と、今度は私たちが能動的に愛することを決意する内容になっています。

 ダイアナ妃が亡くなり、葬送式から24年が過ぎましたが、彼女の思いは今も私たちの心に生きています。後世に残るのは内村鑑三も言うように「高尚なる生涯」です。私たちはダイアナ妃のCharity(慈善)の精神を受け継ぐ者でありたいと願います。