マッテアとマルコの家

勤務している前橋聖マッテア教会や新町聖マルコ教会の情報及び主日の説教原稿並びにキリスト教信仰や文化等について記します。

映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」に思う

 先日、連休中の3日(火)に「シネマテークたかさき」で 映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」を観ました。この映画では、公民権運動の先駆けを果たしたビリー・ホリディとそれを危険として弾圧した米国連邦捜査局(FBI)の対立が描かれていました。
  鑑賞後、スタッフの方に前橋シネマハウスで観て良かった「われ弱ければ 矢嶋楫子伝」の上映をお願いしてきました。検討はしてくださりそうでした。

   映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」の主演はグラミー賞ノミネート歌手で映画初出演のアンドラ・デイ、監督は『大統領の執事の涙』のリー・ダニエルズです。

 この映画の予告編動画を下のアドレスで見ることができます。
https://gaga.ne.jp/billie/

 ビリー・ホリデイ(本名Eleanora Fagan, 1915年4月7日 - 1959年7月17日)は、アメリカ合衆国ジャズ歌手。彼女ならではの個性的な歌声・フレージングで多くの人を魅了し、没後60年以上経っても、その強烈なカリスマ性が現代のアーティストたちに影響を与え続けています。私は高校の頃、コモドア盤のレコードを聞いていましたが、今は次のCDで聞いています。

 このアルバムの一曲目にあるのが、「奇妙な果実(Strange Fruit)」です。下のアドレスで聞くことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=wHGAMjwr_j8

 「奇妙な果実」とは、リンチにあって虐殺され、木に吊りさげられた黒人の死体のことです。ユダヤアメリカ人の教師で、音楽家だったアベル・ミーアポルの白人のリンチ(私刑)で惨殺されて木に吊るされた黒人の死体を悼んだ詩が取り上げられた歌で、最初はローラ・ダンカンが歌って少しずつ広められていきました。
 人種交流が盛んな「カフェソサイエティ」というクラブができてビリー・ホリデイが歌いに行くようになり、常連客だったアベル・ミーアポルと知り合ってその歌の存在を知りました。歌ってみると「カフェソサイエティ」の皆から反響が大きく、彼女のメインのレパートリーになりました。

 「Strange Fruit(奇妙な果実)」の歌詞と訳を下に示します。

Southern trees bear strange fruit,
Blood on the leaves and blood at the root,
Black bodies swinging in the southern breeze,
Strange fruit hanging from the poplar trees.

Pastoral scene of the gallant south,
The bulging eyes and the twisted mouth,
Scent of magnolias, sweet and fresh,
Then the sudden smell of burning flesh.
 
Here is fruit for the crows to pluck,
For the rain to gather, for the wind to suck,
For the sun to rot, for the trees to drop,
Here is a strange and bitter crop.

南部の木は、奇妙な実を付ける
葉は血を流れ、根には血が滴る
黒い体は南部の風に揺れる
奇妙な果実がポプラの木々に垂れている

勇敢な南部ののどかな風景、
膨らんだ眼と歪んだ口、
モクレンの香りは甘くて新鮮
すると、突然に肉の焼ける臭い

カラスに啄ばまれる果実がここにある
雨に曝され、風に煽られ
日差しに腐り、木々に落ちる
奇妙で惨めな作物がここにある

 映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」では、ビリー・ホリデイが、人種差別を告発する「奇妙な果実」を歌い続け、長きに渡り執拗にFBIに追われ続けた様子が描かれていました。披露したら逮捕すると脅されながらも「この歌だけは捨てない」とステージに立ち続けた彼女の短くも壮絶な人生に胸が痛みます。

   ビリー・ホリデイのレパートリーで私が好きなのは「God Bless The Child」です。この曲は、私は高校の頃、BST(Blood,Sweat&Tears)のレコードで親しんでいました。
 下のアドレスで、Billie Holiday & Count Basieの演奏により「God Bless The Child」を聞く(見る)ことができます。 
https://www.youtube.com/watch?v=9m7WAQE1SOs

 "God Bless The Child"は、ビリー・ホリディとアーサー・ハーツォグJr.の共作とされていて、1941年にヒットしました。

「God Bless The Child(神は子供を恵み賜う)」の歌詞と訳を下に示します。

Them that's got shall get Them that's not shall lose
So the bible said and is still the news

Mama may have Papa mey have
But God bless' the child that got his own Got his own

Yes, the strong gets more While the weak one's fade
Empty pockets don't ever make the grade

Money, you have a lot of friends Crowding round the door
But when you're gone and spending ends They don't come no more

Rich relations give Clust of bread and such
You can help yourself But don't take too much

Mama may have Papa mey have
But God bless' the child that got his own Got his own

持てるものは更に得る 持たざるものは失う
聖書に書いてある言葉は いまでも通用する

ママは持っているかもしれない パパは持っているかもしれない
でも 神は自ら得る子供だけに祝福を与える

強いものはより強くなる 弱者が消えていく間に
空のポケットでは成功したためしがない

金よ お前にはたくさんの友達がいて ドアにひしめいているが
お前を使いきってしまえば誰もいなくなる

金持ちの親戚はパンのかけらをくれる
もらってもいいが当てにしてはいけない

ママは持っているかもしれない パパは持っているかもしれない
でも神は 自ら得る子供だけに 祝福を与える

 この曲の冒頭の「持てるものは更に得る 持たざるものは失う 聖書に書いてある言葉はいまでも通用する」は、マタイによる福音書25章 29節「誰でも持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまで取り上げられる。」からの引用です。これは「タラントンのたとえ」の一部で、「神様はどの子にも、持つべき恵みを与えてくれている」と読めます。

 ビリー・ホリデーは9歳の時に「善き羊飼いの家」という問題を抱えたアフリカ系アメリカ女児のためのカトリックの教護院に送られ、そこでカトリックの洗礼も受けました。どのような信仰を持っていたかはっきりは分かりませんが、映画の中でも、1年の刑務所生活を経てカーネギー・ホールでのコンサートを控えてカトリックの教会で真剣に祈る様子から、シンプルな信仰心を持っていたと考えます。
 彼女の曲には聖書の言葉はあまり出てきませんが、「Strange Fruit」「God Bless The Child」の曲は、彼女自身の人生を暗示しているようにも思います。ビリー・ホリデーは家庭的には恵まれず、麻薬に頼る悲惨な人生を送りました。しかし、神様は彼女に魅力的な歌声・音楽という賜物(タラントン・タレント)を与えられました。それを通して公民権運動の先駆けの役割を果たしました。神様は、ご自分の子どもであるどのような人にも、持つべき恵みを与えておられるのです。そのようなことを映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」を観て、特に「Strange Fruit」「God Bless The Child」の曲やビリー・ホリデーの人生から思わされたのでした。