「津田梅子とキリスト教信仰」
少し前になりますが、北関東教区と東京教区の聖職が集まる会議があり、雑談の中で、東京の聖愛教会の牧師である林 永寅(イム・ヨンイン)司祭が「うちの教会の出身者には有名人が二人いる」と話されました。その一人が、新しい五千円札の顔になった津田梅子でした。梅子は6歳の時、日本初の女子留学生としてアメリカに留学し、35歳で女子英学塾(現・津田塾大学)を創設した、日本の女子高等教育に生涯を捧げたキリスト者です。彼女は聖公会の信徒だったのです。ちなみに、林(イム)司祭さんが言っていたもう一人の有名人は、作曲家の滝廉太郎です。
津田梅子については最近はテレビ番組等でも取り上げられていますが、あまりキリスト教のことには触れていないようです。私は彼女とキリスト教信仰の観点から記してみたいと思います。
最初に津田梅子の一生を簡単に年表で振り返ります。
1864年 梅子誕生
1871年 岩倉使節団に随行し、アメリカ留学。ランマン家でホームステイ
1873年 自ら洗礼を志願し、成人受洗
1882年 アメリカから帰国
1883年 伊藤博文の通訳や桃夭女塾(現・実践女子学園)及び華族女学校(現・学習院 女子中高)の教師となる
1889年 再度アメリカ留学を果たす(ブリンマー大学)
1892年 帰国し、再び華族女学校に勤める
1898年 アメリカを経てイギリスを訪問し、女子教育等を視察。ヨーク大主教から直接 教えを受ける
1900年 女子英学塾(現・津田塾大学)を創設
1919年 健康上の理由で塾長を辞任
1929年 脳出血の為死去(享年64歳)
梅子の留学から女子英学塾を創設するまでのこと等については、津田塾大学のホームページに写真付きで詳しく知ることができます。以下のURLです。
https://www.tsuda.ac.jp/aboutus/history/index.html
津田梅子の生涯、特にキリスト教との関係では、今年の2月に出版されたこの本『梅子と旅する。 日本の女子教育のパイオニア』(フォレストブックス編集室 編著、いのちのことば社)に詳しく記されています。

この本によると、アメリカでホストファミリーとなったランマン夫妻は、聖ヨハネ教会(米国聖公会)の熱心な信者で、梅子も毎週その教会の日曜学校に通っていたそうです。子どものいないランマン夫妻は梅子を実子のように愛し、音楽や芸術など豊かな教育を授けました。特にホストマザーのアデラインとは生涯文通を続け、アデラインは信仰的にも梅子を支えました。
梅子は8歳の時、自らの希望で洗礼を受けました。洗礼を授けたオールド・スウィーズ教会のペリンチーフ司祭は、梅子の信仰の確信が明確なことから、幼児洗礼ではなく成人洗礼を授けたとのことです。
日本で受洗の知らせを受けた梅子の両親、仙と初子もまた日本で教会に通い始め、梅子より2年後に洗礼を受けました。
梅子は帰国後はしばらく、一緒に留学しキリスト者になっていた捨松や繁子と英語で礼拝するユニオンチャーチに通ったり、父親の仙が経営する学農社農学校での聖書講義にしばしば出席していました。
ちょうどそのころ、アメリカ人宣教師J・タムソン・コールが来日し、コール長老は、1889年、博愛教会(現・聖愛教会)を創設しました。創立会員となった梅子にはとても喜び、友人であった石井筆子(梅子が教母)と共に、日曜学校教師や奏楽の奉仕をしていました。
梅子は半年後、再び渡米しますが、帰国後は再び熱心に集い奉仕しました。
1898年、梅子は「万国婦人クラブ連合大会」への出席のため3度目の渡米をしますが、招待を受けて滞在した英国で忘れがたい経験をします。英国国教会のヨーク大主教と個人的に会う機会が訪れたのです。梅子は大主教に女子学校創立への不安、自らの信仰の弱さを正直に伝えました。大主教は「キリストに似ることが第一で、それ以外には……事業も教義もない」と語り、「私たちの主であり、救い主であるイエス・キリストの恵みと知識において成長しなさい」(第二ペトロ3:18)という新約聖書の言葉を書いて渡してくれたのです。梅子はその日、「同胞のために働きたい。そのことを通して神に仕えたい」と思いをつづっています。
1年余りの欧米の旅を終えた梅子は、すさまじい勢いで学校創立のため奔走し、1900年9月14日に女子英学塾が生徒10人で始まりました。
津田梅子の日本における女性の地位向上とそのためのオールラウンドな教育を行うという使命は、キリスト教信仰があったがゆえに可能だったのです。特に、米国留学中にランマン家で夫妻から愛され豊かな教育を受け生涯の支えとなったこと、日本での聖愛教会での奉仕や信仰の友の存在、ヨーク大主教からの教え、これらが彼女の信仰を育み使命を支えたと考えます。
ヨーク大主教が梅子に与えた聖書のみ言葉を記します。
「私たちの主、救い主イエス・キリストの恵みと知識において成長しなさい。このイエス・キリストに、栄光が今もまた永遠にありますように。」(ペトロの手紙二3章18節・聖書協会共同訳)
私たちもこのみ言葉を心に留め、キリストを見つめ主キリストに似ることを目標に、それぞれの使命を果たすことができるよう祈り求めたいと思います。